どうして Mac OS X Lion はキモチワルイのか


「キモチワルイ」とは、いわゆる「違和感」というやつです。

日本では 7月 20日夜にリリースされた Apple のデスクトップ OS 新バージョン「Mac OS X Lion(以下 Lion)」ですが、アップグレード直後、私の第一声は、

「うわ〜スクロール逆や! キモチワル〜!」

でした:-&

Twitter を見ていても、スクロール方向についてのリアクションが数多く見受けられました。
一体、Lion に何が起こっちゃったんでしょうか?:o

iOS と同じスクロール方向を採用したことによるキモチワルさ

Lion の大きな特徴の一つに、魔法のトラックパッド魔法のマウスを使って、iPhone / iPad と同じ、複数の指による操作「マルチタッチジェスチャー」がデフォルト採用されている点が挙げられます。

スクロールが逆」というのは、「指の動き」だけに注目すれば判りやすいでしょう。

これまで、通常のデスクトップパソコンでは Web ページなどを「からへスクロール」する際は、

  • マウスならマウスカーソルをページ上へ持って行き、マウスホイールを「からへころがす
  • もしくはマウスカーソルで「スクロールバーをクリックして掴んだままからへドラッグ
  • トラックパッドならマウスカーソルをページ上へ持って行き「1〜2本指をからへスライド

という動作をしていましたね。

から」に移動するときは、手元も同じ方向「から」に動かしていました。

これは「ページの右端には必ずスクロールバーの存在があり、そのハンドルをどの方向に動かすかを意識している」ためです。
ほとんどの人はもう慣れてしまって、無意識で操作しています。

さて、同じ事を Lion や iPhone / iPad などで行うとどうなるでしょうか。
iPad で Web ページを「から」にスクロールする際は、

  • まず指で画面上のページに触れて、その指を「からへスライド」させる

つまり「から」へ移動するには、手元を「から」へ(デスクトップの時と正反対に)手を動かします。
にもかかわらず、iPhone / iPad では「画面に直接触って操作するため、対象と自分の手を同時に意識できる」ので、誰もが自然に操作できてしまいます。

Apple はこれを文字通り「ナチュラル」と呼んでいます。
現実世界ではページは接触して、動かす方向と同じ方向に動くからですね。

デスクトップパソコンは基本的に「画面に触れない」うえ、「マウスカーソル + ポインティングデバイス(マウス・トラックパッド・ペンタブレット)」という伝統的な入力方法に縛られてきました。

私はこれを「(デスクトップ)スタンダード」と呼ぶことにします。
見た目行きたい方向に手を動かすので、実はナチュラルな現実世界とは反対に手を動かしていたのです。

私が感じたキモチワルさとは、

画面には触らないし、見た目はこれまで通りのデスクトップ OS の画面デザインなのに、手元の操作だけが反転しているので、思わず無意識にスタンダードな操作で動かしてしまったとき、ナチュラルな「反対」方向に動くのがキモチワルイと感じた

ということなのです。

両者は根本的に、操作方法・操作感覚が違うものなのです。

iOS でも デスクトップ OS でもないキモチワルさ

Lion は、スクロール方向が iPhone / iPad と同じなのに、「スクロールさせる時の、指の数が違う」点もキモチワルイと思いました。

iPhone / iPad では指1本でページをスクロールさせるのが基本ですが、Lion では指2本でスクロールさせるのが基本になっています。
同じことは2本指のピンチ操作でズーム・縮小させたページを、元のサイズに戻す操作「1本指でダブルタップ(iPhone / iPad)」が「2本指でダブルタップ(Lion)」になっている点も同じです。

先に、「画面に直接触る操作」と「画面と手の間に入力デバイスが仲介する操作」は根本的に違うと述べましたが、それらは「自分の指を見る操作」と「マウスカーソルを見る操作」と言い換えることができます。

マウスカーソルを利用する場合、常に、動かしたいもの・使いたいツール・ボタン・起動したいアプリなどの対象を「最初にマウスカーソルを動かして指定する」というアクションが必要です。

一方、指を見て操作する場合、それら対象にダイレクトに触れられるため、マウスカーソル操作クリック操作を同時に済ませることになります。

指1本操作の基本が「マウスカーソルを動かす」 Lion で、iOS と同じ指の数で操作することは、不可能なのです。

スクロールがキモチワルかった方、これまで通りに戻せます

ちなみに、スクロール方向は、これまでどおりに戻せます。

(クリックで拡大)
システム環境設定 > トラックパッド の「スクロールとズーム」タブの「スクロールの方向:ナチュラル」のチェックを外せば従来通りのスクロール方向に戻ります。

慣れてしまえば幸せか?

「もういっそ Lion のナチュラルスクロールに慣れてしまえば、幸せになれるんじゃないの?」

もっともな意見です。
あなたが「 Mac 以外のデスクトップパソコンを利用しない人」なのであれば、もうこれを機に全ての Mac を Lion にして、ナチュラルスクロールに慣れてしまったほうが幸せになれることでしょう。

でもあなたが「家では Mac、会社では Windows(または、家では Lion、会社では Snow Leopard)で、Microsoft Office や Adobe CS など、双方で同じソフトウェアを使用する人」なのであれば、Lion のナチュラルスクロールを使い続けることは苦痛になるかもしれません。

「同じデスクトップソフトウェアを、同じように操作できない」からです!

そんな場合は、無理に Lion のスクロールに慣れようとするのではなく、とりあえずは前述の「従来通りのスクロール方向」に戻したほうが幸せになれると思います。
もっと言えば、まだ Lion を導入しないほうが幸せになれるでしょう。

ちなみに私はサブの Air にのみ Lion をインストし、メインの Mac はソフトウェア対応の関係で Snow Leopard のままですが、Lion では速攻、「従来通りのスクロール方向」に変更しました:D
そして、Launchpad(ランチャー)は使用しないことにしました。(理由は後述)

iOS (iPhone / iPad) のように使いますか?の提案

私は、今回のような「スクロール方向」だけではなく、もっと iOS っぽさの導入を工夫すれば良かったのではないか?と考えています。

例えば、「iOS モード」と「OS X モード」みたいな「設定セット」を用意して、それをはじめに選択させる仕組みを作れば良かったんじゃないかと。

具体的には、

iOS モード

  • スクロール方向:ナチュラル
  • Launchpad ベース(Dock が常に表示され、Finder アイコン or 3本指+親指ピンチによる Finder との切り替え可)
  • App 起動時は常にフルスクリーンモードで起動(ウィンドウモードへ切替可)

OS X モード

  • スクロール方向:ナチュラル(オフ)
  • Finder ベース(Lunchpad へ切り替え可だが、Launchpad 上でのみスクロール方向:ナチュラルが有効になる
  • App 起動時は常にウィンドウモードで起動(フルスクリーンモードへ切替可)

こんなカンジです。 モードの切り替えや解除はシステム環境設定「モード」で簡単に行えるので、いつでも双方を試せるという具合です。
現在の Lion は、上記がゴチャまぜになっている印象なので、整理しようというわけです。

(クリックで拡大)
OS X モードで Launchpad のスクロールがナチュラルになるというのは、実際にナチュラルをオフにした状態で Launchpad を操作してみればよくわかります。
人は見た目に影響されやすいので、iOS な画面では iOS なナチュラル操作が可能であるほうがよいと思います。

私はナチュラルをオフにしているので、Launchpad の挙動に耐えられず、こいつは封印しました>:)

Apple は Lion でテストを開始したんだと思う

もともと主力だった Mac よりも、iPhone / iPad が売れた Apple にしてみれば、なんとかしてそこからデスクトップのユーザーも引き込みたい(増やしたい)と思ったことでしょう。

「iPhone / iPad の良さをデスクトップ OS に取り込めば、iOS に魅力を感じているユーザーは、次に購入するデスクトップパソコンを Mac にしたくなるかもしれない。」

そうして、Apple は今回の Lion をリリースしました。

でもそれは iOS の使い勝手に似ているものの、実際は Lion 独自のマルチタッチジェスチャー習得が必要で、iOS のように「ファイル構造を意識しなくても使える」わけでもないこれまで見たこともない OS となっている事は確かです。

面白いのは、そんな OS を Apple は敢えてリリースしたということです。
「壮大な実験をメジャーリリースに組み込んでいる」
そう言っても過言ではないでしょう。

Apple の Mac OS X エンジニアたちは、私が上記で述べてきたようなことは十二分に理解していて、「ユーザーにとっての理想」を模索する段階に入ったのだと思います。
具体的には、この Lion を通じて、ユーザーやデベロッパーが「どう使いたいか」を見ようとしているはずです。
そして、そのフィードバックを将来の「全く新しい Mac」に活かそうと考えていることでしょう。

現在、デスクトップ OS でそんな熱い実験ができるのは Apple だけだと思います。

さいごに

タイトルのキモチワルさ(違和感)を文章にするのは大変でしたが、こうして文章にしてみると、なるほど、なぜキモチワルイのかが自分でもよくわかりました。

そして、これまでにない「新しい試み」が、このデスクトップ OS 「Lion」には搭載され、「まだ生まれた(はじまった)ばかりの荒削りさがある」ということも再認識しました。

私は、漢字 Talk 7.5 の時代から Mac をメインパソコンとして使用してきましたが、今回の OS アップグレードには、はじめて「戸惑い」ました。
理由はもちろん、Apple が、根本的にデスクトップパソコンの「使い方」を変えようとしたからです。

そして、そこからまた新しいハードウェアの登場も予感(というより期待)してしまうのは、私だけでは無いはずです。

Lion は異質ながら、いろんな意味で今までにないドキドキ感を味合わせてくれています。

このキモチワルさを解決する唯一の方法(おまけ)

さて、このキモチワルさを一気に解決する簡単な方法があります。
それは…

Apple がマルチタッチディスプレイ搭載の MacBook を発売し、それを入手して使う!:))

ことです。
あーすっきりした!:)

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“どうして Mac OS X Lion はキモチワルイのか” への2件の返信

  1. わたしもナチュラル動作が気持ちわるくて、ナチュラルを無効にしたのですが、
    そうすると、便利と思っていたSafari上の「戻る」動作までも逆になってしまって、これまた異常に違和感があり、ナチュラル動作に戻した次第であります。スクロール方向だけ現状維持にしてほしかったところです。こういう動作を全てカスタマイズさせるのでなく「これってどう?いいよね」とユーザーにつきつけてくるのはさすがアップルといったところですが、やりすぎると総スカンだなとも思います。

  2. totoro さんコメントありがとうございます:)
    Lion しか触らないなら、ナチュラルに慣れてしまったほうがラクですね。 もう Apple はナチュラルをデフォルトにしたいと考えていますからね。

    現在私は、Adobe ソフトウェアの古いバージョンを利用している関係で、渋々 Snow Leopard ですが、2012年5月末に発表されるであろう新しい Adobe CS 6 が出たら即 Lion にしたいですね。 ナチュラルでw

    また、Lion に最適化された「全く新しい Mac」の登場も、2012年には期待されます。
    果たして、キモチよく使えるんでしょうか??
    私は、Apple だけでなく、サードパーティ製ソフトウェアの対応次第だと考えています。

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